本講義では,現在の経済社会においても重要な役割を果たす企業会計が,複式簿記の誕生以降,どのような要因によって会計へと進化してきたのか,およびその後の制度会計の生成過程についてもを学ぶことをテーマとします。
そのため,複式簿記が誕生した中世イタリアから,それがオランダ,イギリス,アメリカなどへと広まり伝わっていく過程と,株式会社会計の生成,それから今日に至る会計理論が形成されていく様相について,関連する歴史的事案(例:大航海,東インド貿易,産業革命,世界恐慌,世界大戦 etc.)も踏まえながら解説していく予定です。加えて,日本の会計制度に大きく影響を与えた20世紀アメリカの会計制度,我が国の会計制度(明治期から平成まで)の発展と仕組みにも焦点当てていき,学習していきます。
【準備学習について】
授業の前には復習をしておきましょう。
【受講に際して】
講義中の私語は厳禁です。
1) ガイダンス,簿記と会計の歴史を紐解く意義 |
・内容:会計の歴史を論ずるにあたって,その根幹となる簿記と会計。両者の意義を考えることで,会計の全体像を確認しておく。簿記と会計の概要を学ぶことは,会計の歴史を学ぶ上で理解を促すことになる。アメリカで刊行されたThe End ofAccountingを手掛かりにする。 |
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2)複式簿記の起源 |
・内容:会計の根幹となる複式簿記の誕生について取り上げる。 |
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3) ルカ・パチョーリと「スンマ」(1494年) |
・内容:最も世界で古い「簿記書」とその著者を取り上げる。 |
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4)中世イタリアにおける複式簿記 |
・内容:世界で最初に複式簿記が普及したとされる中世イタリア。その背景などを考えることで,複式簿記の意義についても検討したい。 |
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5)ヴェネチア式簿記 |
・内容:中世イタリア,とりわけヴェネチアで普及した簿記を取り上げる。その後,この簿記手続きがヨーロッパへと広まり伝わることになる。そこで,この簿記を取り上げて解説する。 |
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6)商品勘定の発展-個別商品勘定と一般商品勘定- |
・内容:ヴェネチア簿記でも,取引が記録されることになるが,その中心となったのが商品勘定である。 |
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7)16世紀ネーデルラントと複式簿記 |
・内容:中世イタリアで使用され始めた複式簿記はネーデルラントへと伝わっていく。当時の簿記の意味合いや経済的,社会的背景も確認する。 |
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8)イギリスへの複式簿記の伝播 |
・内容:その後,ネーデルラントからイギリスへも複式簿記は伝わることになる。当時の簿記を解説した簿記書を取り上げて説明する。 |
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9) 17世紀イギリス東インド会社と簿記会計 |
・内容:イギリスに伝播した複式簿記を導入したイギリス東インド会社の例を取り上げる。 |
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10) 三角貿易、産業革命期におけるイギリスの簿記会計 |
・内容:当時の貿易や産業革命に焦点をあて,簿記手続きがどのような変遷をたどったのか,確認していく。 |
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11) 棚卸資産の評価と時価評価の登場 |
・内容:現代会計では,棚卸資産の評価もまた,資産会計の一つの論点である。その棚卸資産の評価手続きについて歴史的ストーリを概説していく。 |
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12)18世紀スコットランドにおける簿記 |
・内容:イギリスの中でも,スコットランドにおける簿記手続きの普及や簿記技術の展開にも焦点を当てるため,当時の簿記書や教育的側面を取り上げる。あわせて,その経済的,社会的背景も取り上げる。 |
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13)イギリスにおける破産法と会計士 |
・内容:簿記会計の歴史を取り上げるうえで,経済的,社会的背景などのコンテキストを考えることは重要である。そのうちの一つがイギリスの破産法であろう。これと会計士の誕生や普及について考える。 |
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14) 18世紀アメリカへ複式簿記の移入 |
・内容:イギリスからアメリカへと簿記会計の技術や知識が伝播する。それはイギリスからアメリカへと人々が移り住むようになるのとともに。この背景や簿記技術がどのようにして広まっていくのか焦点を当てる。 |
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15) 資本主理論の形成(1) |
・内容:アメリカで簿記理論が形成されていくプロセスを取り上げる。特に「資本主理論」と呼ばれる,出資者の観点から複式簿記を考える。 |
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16)資本主理論の形成(2) |
・内容: 継続して,アメリカで簿記理論が形成されていくプロセスを取り上げる。特に「資本主理論」と呼ばれる,出資者の観点から複式簿記を考える。 |
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17) 固定資産の会計,減価償却の生成 |
・内容:現代会計でも固定資産の取り扱いについては大きな論点である。これが登場した背景に焦点をあてるとともに減価償却の生成について取り上げる。 |
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18) 株式会社の財務報告の形成 |
・内容:徐々に,財務報告制度が形成されてくるプロセスを取り上げる。 |
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19) 損益計算思考の萌芽と展開 |
・内容:次第に,損益(利益)計算の考えが複式簿記の利用の中で登場してくる。この点について解説する。続いて,期間損益計算がより定期的なものへとなっていく様相を概説する。 |
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20) 管理会計の生成-鉄道会社の事例などを中心にー |
・内容:鉄道会社の事例などを通して管理会計が生成した背景などを探る |
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21)企業主体論の登場 |
・内容:複式簿記を中心として簿記手続きを解説する簿記書の中で,簿記理論が展開されていく。資本主理論から新たな「企業主体理論」が説明されていく様子を解説する。 |
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22)会計学の形成-ハットフィールドの『近代会計学』(1909年)を中心として- |
・内容:アメリカ最初の会計学教授でもあるハットフィールド。彼の著作『近代会計学』において,従来説明されてきた簿記が会計学へと進化した様式で説明される。この著作の内容に焦点をあてる。 |
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23)ビッグビジネスと財務会計の登場 |
・内容:アメリカでは,大規模株式会社が多く登場する。その中で,今日的な財務会計が生成していく。その過程について,コンテキストも含めて解説する。 |
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24)会計プロフェッション-会計士の登場- |
・内容:アメリカで会計士が普及し始めたころに焦点を当て,その背景や当時の会計士に役割などを考える。 |
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25)20世初頭紀アメリカ会計基準設定の歴史(1)-大恐慌と会計- |
・内容:世界大恐慌はアメリカ経済をはじめ世界経済に大打撃を与えた。これは,企業会計の制度設計にも大きな影響を与えることになる。この過程について説明していく。 |
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26)20世紀前半アメリカ会計基準設定の歴史(2)-証券諸法、SECと会計規制- |
・内容:前回に続き,アメリカにおける会計の制度設計に焦点をあてる。とりわけ,制度設計にとってのマイルストーンである,証券取引員会の設立や証券法の制定を取り上げていく。 |
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27)20世紀後半アメリカ会計基準設定の歴史(3)-FASBの設立- |
・内容:引き続き,アメリカの会計の制度設計を取り上げる。特に,今日まで存続する会計基準の設定主体であるFASBの設立プロセスやその意義を確認していく。 |
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28) 明治期日本における簿記史-福澤諭吉と帳合之法と昭和における会計制度-商工省準則、企業会計原則等を中心として- |
・内容:日本における簿記手続きやその慣習を確認する。あわせて,明治期には,組織や団体における簿記や会計の側面にもアメリカやイギリスからの影響を受けていく様相も取り上げる。昭和期には,現在まで使用されている「企業会計原則」が制定されることになる。このほかに,当時の制度を取り上げて,必要とされた背景を解説し,その意義を考えていく。 |
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29)21世紀・現在の会計制度-ASBJ設立と会計基準の国際化- |
・内容:最後に,ここ数十年における会計制度の変遷を概説する。昨今の国際化の潮流なども取り上げる。また,企業会計原則と現行基準とのかかわりも考えていく。 |
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30)期末テスト |
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・自主学習:前回の授業の復習を行うこと。あわせて,予習のため,テキストやレジュメに目を通すこと。加えて,会計に関連する知識をみにつけるため,普段より経済関連の新聞記事も読んでおくこと。これにより,授業内容への理解度が高まると思われる。少なくとも4時間以上を目安にすること。 |
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