「地方創生」はこんにち、日本で注目される政策分野のひとつです。そして、地方創生をすすめることはよいことであるという考えが広まっています。またその際に「文化政策」を活用しようという声も日本中で、さらには世界中で高まっています。
しかし、日本では国の力が大きいため、必ずしも地方の自主性が尊重されているとはいえません。
この科目は、日本国家と地方の主体の力関係や、地方自らの取り組みについて考察していきます。
またその際に、現代世界で注目されている「非営利組織」の概念や実際、さらに「中小企業」の問題も扱います。
ただ、理論的・制度的な考察や、文化政策がらみの考察が多くなります。その他の「まちおこし」などの試みの具体例は最低限度取り上げますが、それは学生のみなさんが自力で探すことも可能だからです(随時そうした質問にも答えますが)。
なお、地方自治体の文化政策についてはこちらの科目で扱います。また、コロナウイルス時代における「地方」のあり方も重要なので、随時論じていきます。
第1回 オリエンテーション―「地方創生」という言葉の由来 |
授業の進め方について説明した後、「まち・ひと・しごと」にかかわる「地方創生」という言葉の発祥について考える。 |
予習内容:「コミュニティ」と「共同体」の意味の違いについて、辞書やインターネットを合わせて予備知識を得ておく。(60分) |
復習内容:「まち」「ひと」「しごと」が意味するものについて、授業内容を復習しておく。(60分) |
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第2回 「コミュニティ」の意味―「共同体」とはどう違うのか |
「コミュニティ」とは「共同体」という意味の英語であるが、現在では異なった意味で使われている。また、現代の中央政府や地方自治体、さらに企業もこの言葉を盛んに用いている。そこで、「地方」あるいは「地方創生」と切り離せないこの概念について考察する。 |
予習内容:「中小企業」の意味について、普通に流通しているインターネットなどの意味を調べておく。(60分) |
復習内容:「コミュニティ」と「共同体」、さらに「絆」という言葉の違いについて復習しておく。(60分) |
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第3回 コミュニティ・地方の経済的担い手(1)―「中小企業」 |
近畿大学のある東大阪市は「モノづくりのまち」として知られているが、これは「中小企業」に支えられている。そしてこのような「中小企業」は、アメリカ合衆国やイタリアを除く西ヨーロッパなどの「先進国」にはあまり見られないとされている(一方でイタリアや「発展途上国」には似た形態の「中小企業」が存在する)。つまり単なる規模の問題ではなく、歴史的な経緯と社会的存在の問題となる。そしてこうした中小企業が、日本のコミュニティや「地方」の経済を支えているので、中小企業に関する考察は不可欠となる。 |
この回では、「中小企業」が生まれた歴史的経緯や、その現代的な存在意義を考えたい。 |
予習内容:「非営利」の意味について、普通に流通しているインターネットなどの意味を調べておく。(60分) |
復習内容:自分の地域の「中小企業」の存在意義について考える。(60分) |
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第4回 コミュニティ・地方の経済的担い手(2)―「非営利組織」 |
非営利組織と言えば、現在では「NPO」が有名である。しかし、実は日本生命などの「保険相互会社」も非営利組織であるし、生活協同組合(コープ)、農協・漁協、信用金庫・信用組合などの金融機関(〇〇銀行と名乗っている場合は営利企業である!)も非営利組織である。そのため、「企業」と呼ばれる組織はかなりの数が制度上は「営利目的の企業」ではなく「非営利組織」である。また「財団法人」なども非営利組織である。 |
この回では、コミュニティ・地方経済の担い手である「非営利組織」という言葉の意味について、歴史的経緯も踏まえながら考察する。 |
予習内容:「地方」という言葉の意味について、辞書やインターネットを合わせて予備知識を得ておく。(60分) |
復習内容:自分の住む地域の「非営利組織」について考えてみる。(60分) |
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第5回 中央集権的な日本国―日本で「地方」とは何を指すのか |
ここからは政治制度の考察に入る。日本は「中央集権国家」であり、アメリカなどのような「連邦制」ではない。中央集権とはどのようなことなのかについて考える。 |
予習内容:「東京都」とほかの46道府県の、いったいどこが違うのかを調べてみる。(60分) |
復習内容:「地方」について、自分が持っていたイメージと授業内容がどのようにかけ離れているかを復習しておく。(60分) |
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第6回 そもそも「地方自治体」とは何なのか―大阪都構想を事例として |
地方自治体が、国家とどのような関係にあり、どのような権能を持っているのかについて考える。この観点から重要なのが「大阪都構想」である。これを事例として、考えてみたい。 |
予習内容:みなさんがふだん利用している鉄道の意味について考えておく。(60分) |
復習内容:「地方自治体」の権能の範囲について、授業内容を復習しておく。(60分) |
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第7回 中央政府への地方自治体の従属の実態(1)―鉄道システムの推移 |
日本の近代化には、鉄道システムが絶大な力を及ぼしてきた。これは地方のダイナミズムを中央政府がコントロールしようという試みの連続でもあった。しかしあいつぐローカル線の廃止や第三セクター化は、鉄道に依存せざるを得なかった地方にとって死活問題である。しかもこれらはしばしば東京をはじめとする大都市の都合で決められているのである。 |
この回では、鉄道車両のデザインの変化なども扱いながら、地方がどのような問題を中央に課せられているのかを考えていく。 |
予習内容:「モノカルチャー経済」とはなにか、意味をインターネットなどで調べておく。(60分) |
復習内容:自分の住む地域の鉄道がかりに全廃されたらどうなるかを考えてみる。(60分) |
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第8回 中央政府への地方自治体の従属の実態(2)―モノカルチャー経済と「国土開発計画」 |
日本の近代化は、東京の中央政府や、大都市の大企業によってけん引されてきた。しかしそれは特定の大企業が地方に単一の商品生産を強制する「モノカルチャー経済」によって支えられてきた。その問題が噴出したのが、1950年代から顕在化した水俣病などの「公害」(これらは最初、その地域が依存しきっている大企業によって隠蔽された)、また現代では原子力発電所に依存せざるを得ない地域の問題である。 |
現代では、エネルギー問題・原発問題はもはや地方創生論の問題と化している。これは原発がある地域の「まち・ひと・しごと」振興の手段として使われるようになってしまっているからである。 |
このようなモノカルチャー経済から脱しようとする試みが、地方創生論の主流であるが、まずはその前提となる「モノカルチャー経済」の実態と経緯を考察しておかなければならない。 |
予習内容:地方創生になぜ「文化」が必要とされるのかを考えてみる。(60分) |
復習内容:自分の地域の経済が何に依存しているか、それは過度の依存であるかを考えておく。(60分) |
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第9回 地方創生と文化政策の関係(1)-「関係性の美学」について |
地方創生の手段として注目を集め続けているのが「アートプロジェクト」である。最盛期には、日本のどこかで2日に1回の割合で「アートプロジェクト」が開催される状況であった。 |
この回は、そのアートプロジェクトの思想の一つである「関係性の美学」について考察する。その際に、文化政策・地方創生論から見た「アート」の定義についても考える。またその際に「文化資源」という言葉の起源についても考察する。 |
予習内容:主要なアートプロジェクトを第9回で紹介するので、そのホームページだけでも見てイメージをつかんでおく。(60分) |
復習内容:「関係性の美学」について、「コミュニティ」との関連で再考察しておく。(60分) |
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第10回 地方創生と文化政策の関係(2)-「アートプロジェクト」について |
瀬戸内国際芸術祭や越後妻有など、アートプロジェクトの成功例はいまでも全国で注目されている。しかし成功例をコピーしただけで失敗する事例も数多く存在する。 |
この回は、全国のアートプロジェクトの実態について「どのようなアートプロジェクトが成功とみなされているのか、それはなぜか」という問題を考察する。 |
予習内容:「あいちトリエンナーレ問題」について、インターネットなどで情報を得ておく。(60分) |
復習内容:自分の地域でアートプロジェクトに相当するものがあるか、それははたして「成功」しているのかを考えておく。(60分) |
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第11回 地方創生と文化政策の関係(3)-「あいちトリエンナーレ」問題について |
この回では、2019年に大きな問題を提起した「あいちトリエンナーレ」の問題について考えたい。 |
あいちトリエンナーレ問題は「政治とアート」の関係についておもに論じられてきた。しかし、その背後に世界のアートプロジェクト(政治的に重大な問題を提起すればするほど、アートプロジェクト開催地域のブランディングに貢献し、地域経済が活性化するというダイナミズムがある)と日本のアートプロジェクト(政治的な問題を伏せる圧力が働く)の大きな相違があったことはほぼ知られていない。 |
この回は「政治とアートと経済の関係」について考える試みである。 |
予習内容:「公共劇場」とはなにか、インターネットなどでイメージをつかんでおく。(60分) |
復習内容:世界と日本のかかえる問題の違いと共通性について復習しておく。(60分) |
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第12回 地方創生と文化政策の関係(4)-「公共劇場」について |
これまでは「視覚系のアート」を扱ってきたが、この回は地方自治体などが経営する「公共劇場」を考えてみたい。 |
演劇を地域活性化に役立てるという考えは、1970年代の兵庫県にはじまる。それ以降、さまざまな演劇思想や地域活性化思想がからみあいながら、さまざまな形の「公共劇場」が成立した。それについて考えたい。 |
予習内容:「サブカル」を利用した地方創生について、自分でインターネットなどで情報を集めておく。(60分) |
復習内容:そもそも「演劇」は地方創生に貢献するのかを、自分の地域と重ね合わせながら考察しておく。(60分) |
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第13回 地方創生と文化政策の関係(5)-「サブカル」など |
アニメなどの「サブカル」も、地方創生に貢献するものとして注目されている。茨城県大洗町と『ガールス&パンツァー』の関係は、成功例として取り上げられることが多い。これらの例を考えてみる。 |
予習内容:「文化財の活用」について、資料を第13回に紹介するので目を通しておく。(60分) |
復習内容:「サブカル」と地方の関連性について、重点的に復習しておく。(60分) |
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第14回 地方創生と文化政策の関係(6)-「文化財の活用」 |
1990年代まで、「文化財」はなによりも後世に残すことが重視されていた。そのため、ほとんど人目に触れずに残すことを最優先するような文化財も存在した。しかし2010年代から「文化財の活用」が政府によって叫ばれるようになる。 |
この「活用」とはいったいどのようなものなのか、経済性をふくめて考察する。 |
予習内容:第1回から14回までの授業内容を復習し、「地方創生」とは何かをもう一度考え直しておく。(60分) |
復習内容:「文化財」「文化資源」の活用とは何なのかを復習しておく。(60分) |
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第15回 まとめ―自立した「地方創生」とは何か |
国に必要以上に頼らない、自立した地方の「創生」とは何なのかについて考える。 |
予習内容:自分が関心を持ったテーマについて、期末レポートを準備する。(60分) |
復習内容:「自立」するとはどのようなことかを重点的に復習しておく。(60分) |
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定期試験「日本における『地方創生』について」 |
正答を選択する問題(歴史や制度の知識を問う問題)、論述問題を出題します。ただし持ち込みは他の受験者の障害にならない限り、可とします。 |
詳細は授業中に述べます。 |
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